“衛星通信システムにおける降雨減衰確率推定法”


   衛星通信においては、伝搬路の大部分が宇宙空間であり、降雨減衰を受けるのは降雨が存在する地表面近くの部分のみである。雨域を通過する部分における降雨減衰の影響は基本的に地上無線通信システムと同様であるが、雨域を通過する距離が地球局から見た衛星の仰角、雨域の高さに依存するため、地上無線無線通信システムとは計算方法が異なり、降雨減衰確率推定手法も、これに応じて異なるものとなっている。
衛星通信システムは、文字通り宇宙空間に浮かぶ衛星と地上との間の通信であり、自由空間伝搬損失が、地上無線通信システムに比較し、格段に大きく、降雨減衰に許容されるマージンは格段に小さくなる(数十dBオーダー)。また、降雨が地表面近くにおいてのみ存在するとは言っても、その高度は地表面から最大5km程度(緯度に依存)の範囲に及び、決して短い距離ではない。このため、衛星通信システムに求められる回線不稼働率目標値は、地上無線通信システムのそれに対し、桁単位で大きくなり、結果として降雨減衰確率推定法が適用される確率範囲は桁単位で異なることとなる。これまで、既存の降雨減衰推定法においてはガンマ分布や対数正規分布(条件付を含む)が用いられてきているが、降雨減衰の実確率分布に対する近似精度が優れているのが、前者が比較的小さい確率の範囲であるのに対し、後者が比較的大きい確率の範囲であることから、国内で提案されている降雨減衰推定法では、前者が地上無線通信システム用降雨減衰推定法*1に、後者が衛星通信システム用降雨減衰推定法*2に適用されている。今回新たに提案した降雨減衰推定法に用いているM分布は、広い確率範囲で近似に優れており、地上無線通信システム用降雨減衰推定法だけでなく衛星通信システム用降雨減衰推定法への適用においても有効であると考えられる。
*1:森田和夫,樋口伊佐夫,“降雨による電波の減衰量の推定に関する統計的研究”,研実報,Vol.19, No.1,pp.97-150,1970
*2:森田和夫“衛星通信回線における伝搬特性の推定法(準ミリ〜ミリ波帯の場合)”,研実報, Vol.28,No.8, pp.1661-1676,1979

衛星通信システム用降雨減衰確率推定法に関するITU-R勧告は以下のとおりである。
@ITU-R勧告Rec.P.618-8,“Propagation data and prediction methods required for the design of Earth-space telecommunication systems”
AITU-R勧告Rec.P.838-3,“Specific attenuation model for rain for use in prediction methods”